【コラム】数字で見る「間違った「貨幣」の前提」が辿り着いた世界

  前回は、「実物経済」と「金融経済」の違いと、肥大化した「金融経済」が、巨大な格差を生み出し中間層を破壊する仕掛けを記載しましたは、今回は、「数字」で追ってみます。

注)今回も「シンボルエコノミー 日本経済を侵食する幻想」(水野 和夫著)から整理した内容になります。※内容はだいぶ加工してあります。

 20世紀になると税の再分配機能が重視され、福祉政策の実施により、中間層が台頭しました。その裏返しとして、資本家のパワーは相対的に低下します。一方で、二度にわたる(1973年・1978年)石油危機で先進国はスタグフレーション(スタグネーション[経済停滞]とインフレーション[物価上昇]の合成語で、不況とインフレが同時進行する状況)に陥り、「大きな政府」に対する支持を失いました。

 この状況に対して本来は、財政赤字貿易赤字を改善するには増税が必要ですが、それは「不愉快な問題に取り組む」ことを意味します。民主主義では選挙民の支持を得にくいため、株価や地価などの資産価格の値上がりによって、国民の目を逸らそうとしました。

 1981年まで、世界金融資産/名目世界GDPの比率はおおむね100%で安定していました。その後、金融と資本の自由化が推み、2021年には258.7%まで高まりました(2023年は246.8%)1982年と2023年を比べると、分母である名目世界GDPは9.0倍(年5.4%)に増えていますが、分子の世界金融資産も25.6倍(同8.0%)にまで膨れ上がっています。とりわけ、世界の株式時価総額は45.5倍(同9.5%)になっています。

 21世紀に生じている実質金利ゼロは、「定常状態」を予見しています。定常状態に近づくほど成果(付加価値)をいかに公正に分配するかが、ますます重要性を帯びてきますが、定常状態に近づくと付加価値の増加分が小さくなり、資本家が利潤をより多く得るように利益分配すると、労働者の取り分である雇用報酬が前年より少なくなる事態が起きるからです。現実に、日本では1990年代後半からそれが起きています。
 日本は労働生産性に見合った賃金が支払われていないわけですから、公正な分配をしようせず、付加価値を以前よりも増やそうとしています。言わば「成長戦略」によって「定常状態」を阻止しようとしています。その結果、過剰生産体質になっているのです。過剰生産であっても統計上、付加価値は増加しますが、政府目標の年2.0%成長にほど遠く、2013年のアベノミクスから2023年までの実質GDP成長率はわずか0.7%に過ぎません。

 日本でのビリオネアに相当するのは法人企業です。日本の法人企業の内部留保金は2023年末で601.0兆円に達しています。内部留保金はバブル崩壊直後の1993年度には140.6兆円でしたが、その後、不良債権処理などで「失われた10年」に突入し、1998年度末には131.1兆円に落ち込みました。2023年度末には、1998年度末と比べて4.49倍まで膨れ上がっています。この間、実物経済を象徴する実質GDPは、1.19倍にしかなっていません。

 内部留保金は金融経済における資本であり、当期純利益を増やすことで株価を押し上げる大きな要因となっています。事実、日経平均株価は2009年3月10日に7054.98円とバブル後の最安値をつけましたが、2024年7月11日には4万2224円まで値上がりし、5.98倍になっています。内部留保金の増加率を若干上回っています。
 定常状態に入った経済で当期純利益を増やすには、賃下げと銀行への利払費を削減するしか有りません。企業はこれを実行しているのです。

 いっぽうで、国民は円安による食料とエネルギー価格の値上がり、実質賃金の引き下げ、事実上の預金利息ゼロという三重苦を強いられています。利子率が「景気の体温計」ではなくなったように、株価も景気の良し悪しではなく、国民生活の苦しさを反映する指標となったのです。

 その結果、中産階級が危機に瀕しています。年収200万円以下の給与所得者は2023年に1036万人と給与所得者の20.4%にも達しています。2009年の24.4%からは低下していますが、労働者派遣法改正によって派遣業種が原則自由となる前年の1998年の17.5%を大きく上回っています。金融広報中央委員会のアンケート調査によれば、2023年時点で金融資産を保有していない世帯の割合は24.7%となり、1987年の3.3%から大幅に上昇しました。バブルが崩壊して株式投資で損失を被ったり、リストラで賃金カットや失業したりして、金融資産を取り崩さざるを得なくなった世帯が増加したからです。

 惨憺たる状況が見えてきます。従って現在の経済システムの中で「ドット型国家」を構築するに当たっては、世界経済システムから鎖国するしかないと思われます。つまり、「資本の自由移動」を制限し、金融政策/為替政策をコントロールする必要が有ります。

 または、現在の金融経済の「資本」から、実物経済での「資本」を守る経済政策(コモン化など)が必要であると判断できます。

「一物一価」でないと測定・評価・制御出来ませんので…

以上です。