「書籍紹介:教養としての社会保障」に下記の記載があります。
第5章【産業としての社会保障】
社会保障はGDPの5分の1を占める巨大市場
(1)GDPに占める社会保障の規模
「2010年度国民経済計算」を見ると、GDP479兆円、政府部門支出226兆円でうち社会保障支出104兆円です。社会保障支出の規模は対GDP比で20%にもなります。
経済政策や企業活動に関わる人たちにとっては社会保障は「負担」だというのが常識でした。しかし、社会保障は経済メカニズムの中に組み込まれていますから、もちろん負担という面もありますが、他方で、国民経済を支えている、あるいは経済活動それ自体の一つという側面もあると言えます。
日本の主要産業の市場規模を見ると、2013年時点で最大の市場規模を誇るのは今や情報通信産業で、80兆円を超えています。自動車、建設が50兆円前後で、その次が医療産業の40兆円です。(ここで言う医療産業は健康産業などの周辺産業を含まない文字通りの「医師・医療機関が提供する医療」で、これに介護の10兆円を加えると自動車や建設産業を凌駕する市場規模だということが分かります。)
医療介護産業は大型小売店より大きな市場規模を持っているのです。
さらに、医療・介護の分野で、先端医療やデータヘルス計画などを通じたイノベーションが進行し、地域医療と介護基盤の強化が達成で
きれば2025年には市場規模は90兆円になると推計され、もっとも成長が見込まれる産業の一つでもあります。
この分野は全国あまねく需要があるため、一極集中はなく、地域経済の下支えをしています。今や、社会保障(産業としての社会保障)を度外視した産業政策はあり得ない。
(2)経済を支える社会保障
雇用政策の面からも、社会保障の果たす役割はとても大きいと言えます。
日本でも、2002年を基準とした雇用増減割合の推移を見ると、増えているのは医療福祉と情報通信業だけで、医療福祉の増加率は50%を超える第1位です。実人数で言えば10年間で238万人の雇用を新たに創出しています。
20世紀の終わり頃から、経済の波及効果を見ても、医療や介護は、その消費が従業者の所得を通じて新たな消費を生む効果も併せ考えると、公共事業を上回る経済波及効果を持つ産業分野になりました。今や保育や医療ほど投資効果の高い産業は有りません。
2025年には、労働市場規模はさらに膨らみ、社会保障国民会議のシミュレーションによればこの分野での労働人口は670万人規模になると予測されています。
経済の活力を維持するには衰退産業から成長産業に資本と労働を円滑に移行させなければなりません。その為には、積極的な労働市場政策が不可欠です。セーフティネットを充実させ、公的職業訓練などの人的資本形成支援が強化されれば、失業・転職などの環境変化への対応が高まり、産業構造の変化や企業再編などに伴う個人の負担は軽減されます。結果、経済の柔軟な変化が可能となり、潜在経済成長力が高まります。
年金など現金給付の経済効果も見逃せません。年金の給付額は年間56.7兆円です。これは個人消費に直接つながっています。人口が減り消費が縮小する地方では、大きな人口を占める高齢者の消費を支える年金が地域経済を支え、地域再生に貢献しています。
社会保障の財源は税と社会保険料であっても、経済を動かし景気を下支えしているという観点からは、税金で道路や橋をつくっている公共事業と構図はなんら変わりません。社会保障の理解のためには、「負担」だけを見る従来の思考を改め、経済や産業・雇用に与えている影響にも目を向け、社会保障と経済との関係を多面的に考察することが不可欠です。
上記の事実をふまえると「ドット型国家」の主力産業は、「社会保障」という事になります。