今を理解する為に、読んでいる書籍です。「中国不動産バブル」のお話ですが、「中国の不動産バブルの形成と崩壊は中国社会に内在する制度的歪みによるものである」と言う著者の見解は納得です。お手数ですが、全文を読破願います。新書なので無理なく読めるのボリュームです。
【私の思い】
日本の「バブル崩壊」より深刻な中国のバブル崩壊、世界金融恐慌にもつながりかねない世界第2位の経済大国のリスク。但し、ここでも「世界金融危機」のおり、世界から救世主として巨大の需要創造を迫られた事が「トリガー」である事を忘れてはいけない。もはや世界は「一連托生」の罠から自由ではいられない。
※本書より抜粋/加工
【不動産バブルとバブルの崩壊】
現状を見ると、中国は1人当たりGDPが1万2000ドル程度の国にもかかわらず、国内の不動産価格はニューヨークやロンドン、パリ、東京の相場を凌駕している。これは明らかにバブルになっていると言えるだろう。
世の中に崩壊しないバブルは存在しない。2021年、中国不動産デバロッパー・恒大集団(エバーグランデ)は初のデフォルト(債務不履行)に陥った。これは中国不動産バブル崩壊の幕開けを意味する出来事である。2023年6月時点での恒大集団の負債総額は、2兆3882億元(約48兆円)に上り、6442億元(約13兆円)の債務超過となっていた。売れ残り不動産は1兆860億元(約22兆円)だった。この金額から問題の深刻さが分かる。同年8月、恒大集団はニューヨークの連邦破産裁判所に米国連邦破産法第15条の適用を申請した。
現在、創業者の許家印の身柄は警察によって拘束されている。
【不動産開発は一石二鳥の戦略だった】
中国政府も不動産開発を熱心に促進してきた。まずは中国の経済発展モデルと政府の経済政策を概観しておく必要がある。
そもそもの始まりは、1978年に始動した改革・開放政策だ。それ以前の中国経済は毛沢東時代の計画経済の失敗により破綻状態にまで陥っていたが、最高実力者となった鄧小平は大きく方針転換。段階的に経済の自由化を進め、外国企業の対中直接投資を誘致した。この政策の神髄は、中国国内にある大量の廉価な労働力を外国資本と組み合わせ、廉価な商品を大量に生産・輸出して外貨を獲得することだった。
1990年代に入り、朱鎔基首相(当時)は内需に依存する経済成長を強化しようと呼び掛けた。内需のなかでもっとも可能性を秘めているのは不動産に対する需要だった。不動産開発は人々の住環境を改善するだけでなく、経済成長を押し上げる効果が期待され、いわば一石二鳥の戦略であった。
中央政府にとっての不動産開発は経済成長を牽引するエンジンだが、地方政府はそれに便乗して、「融資平台」(platform)と呼ばれる投資会社(日本の第三セクターのようなもの)をたくさん設立した。これらの投資会社は地方政府からサポーティングレター(暗黙の保証)をもらって国有銀行から融資を受けると同時に、社債を発行している。社債発行で調達された資金は、都市インフラ整備、市庁舎の拡張と不動産開発への投資へと回された。
不動産バブルが崩壊した今、これらの「融資平台」の多くはすでに債務超過に陥っている。地方政府は自らが設立した「融資平台」を救済したいだろうが、その地方政府の財政も赤字に転落している。彼らの運命は、中央政府が救済するかどうかにかかっている。
【マネーゲームと腐敗の進行】
習政権になってから数百万人の共産党幹部が追放されているが、その多くは不動産開発関連の腐敗幹部と言われている。中国では、規律委員会の事情聴取を受ける幹部は、自分の預貯金などの財産の由来を明らかにする必要がある。由来を説明できなければ、不正で得たお金と見なされ、党から追放されてしまうのだ。
一般的に、土地使用権の入札には複数のデベロッパーが参加するが、どのデベロッパーが落札できるかは、入札を司る地方政府の幹部にどれほど賄賂を払うかによる。
土地使用権の払い下げにおいてガバナンスが利いてないと、地方政府とデベロッパーによる不正が横行する。こうした不正は賄賂をもらう側にとっては機会コストが安いが、最終的なツケは不動産、すなわち、マイホームを購入する消費者が払うことになる。
近年は直接現金を渡す代わりに、開発されたマンションのカギと権利書を渡すケースも増えた。逮捕された共産党幹部とその家族が所有するマンションや別荘の戸数は、何十、百何という数になっている。
【共産党統治体制をひっくり返す要因に】
不動産開発は中国の経済成長を牽引することもできるが、同時に共産党統治体制をひっくり返すこともできる、といえる。
重要なのは法による統治の徹底と透明性の担保である。ガバナンスが利かない社会では、絶対的な権力を握る共産党幹部と役員は往々にして腐敗する。大規模な腐敗は共産党幹部と役人個人の倫理の問題もあろうが、それよりも、制度の欠陥によるところが大きいと認識すべきである。習政権にとって不動産バブル崩壊の経済危機は共産党一党独裁体制を脅かすものである。